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飯田先生 ネパール訪問記

 本年4月26日から5月2日まで広島大学脳神経外科の飯田先生が支援のためにネパールに行かれましたのでご報告させていただきます。


広島大学脳神経外科 飯田 幸治 先生

国際支援
ネパール訪問記 –epilepsy camp-

広島大学脳神経外科
飯田幸治

 本年4月26日より5月2日までネパールのPant先生から依頼を受けてネパールでepilepsy campを行ってきました。現地での活動についてご報告いたします。

 4月26日午後にタイ、バンコク経由でカトマンズに着きました。まだ4月というのにとても暑く30度を超えていました。空港からカトマンズ市内への道路は砂埃だらけ、道沿いの家々をみながら、あっという間に異国情緒は飛びさって、カトマンズ市内の喧騒が想像されました。


空港から市内への道

 空港から直ちにPant先生のカトマンズモデル病院に入りました。ちょうどPant先生は前交通動脈瘤破裂の患者さんの手術をされており、手術室の案内、使用されている手術器具、顕微鏡などの紹介をしていただきました。ほとんどが日本からの寄贈によるもののようです。これまでのたくさんのご厚意にPant先生はとても感謝されておられましたが、すでに動脈瘤用のクリップが不足しているとのことで、もしどなたでも援助してくださる先生がおられれば、どんなものでもかまいませんので是非お願いしますとのことでした。

カトマンズモデル病院 入り口付近から
4階から

 さて、術後に病院内を案内していただき、その後、 外来でepilepsy camp(といっても今回は田舎の国境無き医師団のようなものではなく、あらかじめPant先生が選択していた中の10人程度の外来患者さん)を始めました。


外来での診察の様子

 これは通常の外来の形式で、患者さんが持参MRI, EEGと一緒にこれまでのclinical courseを患者さんが話すネパール語からPant先生かあるいはfellowが英語訳して私に伝え、必要な情報を私から英語→ネパール語、また英語という順序で診察し、discussionを経て、治療方針を決定するというものでした。一人20-30分程度で4時からはじめましたので終了時すでに夜でした。6人程度はsurgical candidateだったと思います。

 翌27日5時起き。カトマンズから200km西のポカラというヒマラヤ近くの街に5時 間かけて移動しました。この道中、最初はカトマンズ盆地から低地のポカラに向かう途中で険しい渓谷を下っていく景色がすばらしく、またもの珍しいので、興味に心躍らされておりましたが、次第にとても危険な旅だと気づきました。道路のコンディションは悪く、心ではなく体が踊っておりました。反対車線を平気で車が追い越し、向かってきますし、人も牛もろばも、にわとりもなんでもかんでもが歩いているので、安全に目的地に着くためには相当な運転テクニックが必要と思いました。まさしく、NHKスペシャルの世界と思われました。


反対車線を追い越す車

渓谷をおりていく車。夜間にトラックが一台転落しており、
ちょうどロープで引き上げている光景をみました。

 早めの昼食後、ポカラManipal Teaching Hospitalで、早速外来患者15人程度を診察しました。この中で 1/3くらいはsurgical candidateでした。日本で行っているてんかんの外科適応とは若干異なっています。というのはビデオ脳波モニタリングシステムがないためにてんかん焦点診断のgold standardである発作時EEGや頭蓋内電極を用いたinvasive studyができないために、これらを考慮してcandidateを決定します。


Manipal Teaching Hospital

 大学病院のような位置づけでしょうか。大きな病院でした。実はつい最近玄関ホールの天井(5階くらいの高さ)が全部抜落ちて大勢の犠牲者がでたそうです。

Manipal Teaching Hospitalにて。左からSudan先生(脳外科のresident)、脳外科のout patient department assistant (すみません名前忘れました)、Pant先生、epilepsy campをorganizeしてくれたneurologist (すみません名前忘れました)、Surajさん (Pant先生のEEG technician)と。

 外来診察を急ピッチで終わらせ4時ぎりぎりに、最上階の講義室に移りmedical student and fellowに1時間程度lectureを行いました。Epilepsy camp at Manipal Teaching Hospitalというカンファレンス名でこの病院の神経内科医がorganizeしておられ、医学部長Prof SK Dham先生も大変歓迎してくれました。実はこの先生は免疫学の教授ですが、てんかんについても相当勉強されたらしく(おそらく今回の訪問に備えて?)、外来を始める前にPant先生と3人でてんかん外科治療についてdiscussionをしました。Pant先生のお考えでは患者さんはもちろんですが、doctorsへの啓蒙をどんどんすすめていってこの病院でも多くのてんかん患者さんの手術をしたいということのようです。さて、会では、Pant先生が”Our experience on Epilepsy surgery “、私が"Surgical candidates of intractable epilepsy -Seizure semiology, EEG findings, and surgical strategy in mesial TLE-" というタイトルで講演をいたしました。150人くらいの参加者で、みなさんてんかんに対する興味が強く、neurologist, neuropsychiatrist, pediatricianなどからたくさんの質問がありました。

Epilepsy camp at Manipal Teaching Hospital

 夜は参加された先生方とbanquet。

 ポカラ泊で、翌28日はそろそろ観光かなと少し期待したのですが、朝からもと結核センター、今は脊椎、脊髄センターに行き、回診、多くの外科適応のある患者さんがおられました。午後からようやくポカラの有名なフェワ湖付近の散策にでかけることができました。

フェワ湖。ボートの上から。
仕事の合間の休憩といった感じ。
少し疲れています。

 ポカラ泊。29日は4時起き。この国の人たちはとてもよく働きます。週末は土曜日が休みですが、週明けは日曜日で仕事が始まるのだそうです。5時出発でふたたびシルクロードならぬ、断崖の道を車で戻り、昼にカトマンズ着。少し休憩の後、再び外来診察が5人程度おられました。4時くらいから26日の外来診察にきていた患者さんの手術を行いました。この患者さんのEEG、MRIは以前Pant先生からメールで相談を受けていました。典型的な内側側頭葉てんかん症例ではないために、実際の外来診察時に手術適応とその内容について決定する予定でした。実をいうとあまり乗り気ではなかったのですが、Pant先生があれよあれよという間に患者さんと手術の同意を得てしまいました。患者さんも長年のてんかん発作でとにかくなんとかしてほしいと強い希望があり、時間的都合で急遽きまった上に手術室と経済的理由から最初の両側側頭葉への深部電極留置は局所麻酔下で行うことになりました(ネパールの人は強いですね)。この患者さんの海馬はMRIでは正常で、脳波では独立した異常棘波が反対側(右)からも出現しておりましたので、発作時脳波を捕まえる時間的余裕と設備はないのですが、せめて発作間欠期棘波の側方性と拡がりを把握したかったということで、両側海馬に深部電極、底部にstrip 電極を留置し、一晩モニタリングしました。ネパールではじめての手術となりました。実はこの患者さんは、抗てんかん薬を自己断薬しています。その理由は、多種類の抗てんかん薬を長年服用してきても、発作コントロールができないためということと、経済的理由です。たとえば、日本だと経済的理由から3-4種類の抗てんかん薬を服用することを拒む患者さんは稀だと思います。ネパールでは、月に10回発作が起こるのが、多剤併用で月に1-2回に減っても同じことだというのですね。そのために、長期にわたる多額の医療費は払えないというわけです。こういう患者さんにとって手術でてんかんが治癒してしまえば、将来的な医療費負担も軽くなります。ネパールには同様の患者さんは他にも多くおられ、医療技術・機器など種々の援助を待っているのだと感じました。

 ベッドサイドのモニタリングシステム。20チャネルまででone nightの記録は可能のようです。Pant先生(左)とtechnicianのSurajさん(右)。私が、明日の手術は君のこの脳波記録次第だよと言ってしまったために、Surajは、責任を感じて一晩中起きてモニタリングをしていたようです。

 30日午前中に急いで脳波解析し、術式決定。本当は10時から手術開始予定が大幅に遅れその間に5人程度の外来患者の診察となりました。2時から手術を行いました。術式は左側頭葉前方切除(4cm)と海馬MST(多切術)。記憶障害が生じていないために海馬切除は行いませんでした。これもネパールでは初めてということで近隣の脳外科医(といっても3-4人くらい、数百キロくらいからほぼ全員?)が集まっていました。


手術見学をしている脳外科の先生たち

 大急ぎで終わらせて、6時にNepal Epilepsy Society主催の特別講演に参加。PresidentのProf Agrawal先生をはじめとする、senior doctorが多数出席されていました。私の講演は“An orderly approach to the electroencephalogram (EEG) - EEG analysis as presurgical evaluation –”でした。PresidentのProf Agrawal先生はてんかん外科を今後どんどん推し進めていきたいとのお考えのようで、今後のサポートを依頼されました。
夜はその先生がたとbanquet。


Nepal Epilepsy Society主催の特別講演


1日午前、外来がやはり5人程度。術後の患者さんの回診と一緒にICUの他の患者さんも一緒に回診。午後からようやくカ トマンズ市内の観光となりました。


古い町並みのバクタプール。
カトマンズ近郊20kmくらいのところにあります。 


水汲みをしている子供たちと近所のおばさん?昔の日本の一風景を思い出す?露天の野菜売りと子供たち。


 2日、昼に出発予定、終わりかとおもったら、どうしても3人患者をみてほしいとのこと。脳梁離断術の相談でした。うち一人はcandidateですが、total にするか前3/4にする かなやましいケースでした。ぎりぎりになって空港まで送ってもらいカトマンズを後にしました。

 大変勉強になるネパール epilepsy campでした。長期不在でご迷惑をおかけしました医局の先生方、一部支援をいただきましたAANIの皆様にこの場をお借りしましてお礼申し上げます。

 PS 手術患者さんですが、最近の報告によりますと観察期間は短いですが、発作は止まっているようです。ほっとしております。