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平和のために、いま、この世界のいろんな国で、行動を起こしている若者たちがいます。ここではANTが出会ったそんな若者たちを紹介していきます。

ケビン•ルースくん(アメリカ)について 記•ANT代表 渡部朋子ケビン•ルースくん(アメリカ)について

記•ANT代表 渡部朋子

 2004年、被爆59年目の広島の町で、私は17歳のアメリカの男子高校生に出会いました。彼の名前はケビン・ルース君。お母さんとともに広島にやってきました。彼が広島を訪れた理由を語ってくれました。
 「アメリカにはヒロシマのことを紹介した大人向けと小さな子供向けの本はあるけど、僕達の年代向けの本がないんだ。だから僕がその本を書くんだ。」と。
 「アメリカの公立学校では、原子爆弾の使用は第二次世界大戦の終結を早め、何万人もの米兵の命を救ったと教えています。その一方で、多くのアメリカの人々が原子爆弾を使用したことに罪悪感を持っています。」とケビン君は話します。そして、以前彼が通っていたオハイオ州の公立高校では、イラク戦争はもちろんのこと政治的なこといっさいを自由に高校生同士で議論することが学校からも保護者からも禁止され、その状況にケビン君は我慢ができなくなり、単身フィラデルフィアにあるクエカー教徒の運営する学校に転校したことなども話してくれました。
  この素直な勇気ある青年は、暑さで焼けるような広島の町を大汗をかきながら歩きまわり、多くの人と出会い、話し、聴き、ひとつひとつをノートに書きとめていました。そのひたむきな真摯な姿にうたれた私は、ケビン君を被爆者である私の母に引きあわせる決心をしました。
 私の母は当時15歳、広島日赤看護学校の生徒でした。間一髪、寄宿舎内に入り、そのお陰で奇跡的に生き延び、多くの被爆者の治療に専念しながら昭和28年に結婚するまで看護師を続けました。家庭に入ってからは自身の被爆体験を語ることはほとんどありませんでした。その母に、ケビン君へ被爆証言をしてくれるように頼みました。
 「思い出したくない」「どんなに語っても語り尽せない」と言っていた母が、自分の孫のような年代のアメリカの青年に3時間あまり自らの体験をとつとつと語ります。まっすぐに身を乗り出してしっかりと聴くケビン君、時折大きくうなずきながら何ページにもわたってメモをとります。母は話の途中で何度も「かわいそうにねえ、こんな話を聴くのはつらいじゃろう。この子には責任はないんよ」と1人語ります。
 「他に聞きたいことはある?」「被爆した後、身体や心につらいことはありませんでしたか?」
 「毎日ねえ、朝になったら櫛でとくと髪の毛が抜けて…。歯茎から出血するといやでね、死ぬんじゃないかとこわかったよ。それで自然と神仏に手を合わせるようになってねえ…。」
 母は語り尽くせぬ思いを通訳を介しながら語りつづけ、傍らにいた私も「ああ、そうだったんだ」とあらためて心に刻みます。
 「原爆を落としたアメリカが憎くないわけではないけれど、日本も真珠湾を攻撃したけんねえ…。戦争で一番みじめでつらい思いをするのは子供よ。今でもよう忘れん、目に焼きついとる。日赤の玄関の前で死んだお母さんのおっぱいを3・4ヶ月の赤ちゃんがまさぐっとった。あの子はどうしたかねえ。あの時の広島の子供らはアフガンやイラクの子と同じよ。」
  17歳のケビン君に、当時15歳だった母の記憶はこうして受け継がれていきました。話が終わり、孫のように肩を抱いて一緒に写真を撮り、「来年も広島にきんさい。ホテルに泊まらんでもうちにとまりゃあええけん」と母が話すと、ケビン君は目を輝かせて「来年も広島に来ることが出来たら必ず泊まります。」と約束しました。
 59年目のヒロシマだからこそ、この光景を見ることが出来るのでしょう。「ヒロシマ」は老いています。
 帰り道、私はケビン君に尋ねました。「いつからヒロシマのことを知ろうと思ったの?」「僕が8歳の時、学校の先生がサダコのことを教えてくれたんだ。それから千羽鶴を折ることも。」
 アメリカから来たこの青年の素顔は、ジュースとクッキーが好きな17歳の男の子です。日本の青年と同じように「携帯電話」を大切にして、時々アメリカのガールフレンドに電話をします。野球観戦、お好み焼き、そしてカラオケと広島の生活もエンジョイし、日本食は何でも食べてほとんどOKと笑います。ケビン君のことを思い出すたびに「希望」という言葉が浮かびます。
 59年目の広島はあの暑い8月6日が過ぎ去り、ようやく時折涼しい風の吹く毎日となりました。あの日から、母はあれほど語りたがらなかった自分の体験を「残さなければ」と思うようになりました。
 私も母もケビン君の本が出来上がるのを楽しみに待っています。
 
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